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第15回国際エイズ学会レポート


開催日:平成16年7月10日(土)?17日(土)
会場:タイ・バンコク IMPAC

■各国のエイズ事情
7月10日から17日まで、タイ・バンコクで第15回国際エイズ学会が開催され、HIV/AIDSの最新治療や重複感染について新しい情報が得られることを希望し参加しました。
しかし、今学会は、最新の医療・治療というよりは発展途上国のお家事情の訴えが強く現れていたように感じました。巨大製薬企業へのジェネリック薬品要求、若い世代の性感染、薬物による感染対策、HIV/AIDSよりもマラリア、または貧困の方が重要問題である等の声が大きく占めていたように思います。というように、当初の目的から外れたことは残念でしたが、上記の訴えをしている各国の人々はとてもパワフルで特に若い世代の積極的な活動を目にし、自分たちがHIV/AIDSにおいてできることは何であろうか?と改めて広い視野で考える機会を得たことは良かったです。

いくつかのワークショップに参加した中で興味深かったものは『Building effective peer education outreach programs』でした。ここでのPeer EducationとはHIVに感染した人への対応を精神的、医療的援助をカウンセリングにとどめず、もう1歩Education(教育)まで踏み込んでみるということでした。

参加者は「教育?何を?」と漠然とした思いをもちながらリーダーからの説明を受けました。具体的にはゲームを取り入れ、『言いたいのに言えない気持ち』、『援助する際に手(口)を出したいのにあえて見守る』という体験をし、当初の漠然とした思いが非常にはっきりし、理解できました。教育というと知識に重点を置きがちですが、ここでは身をもって知るということの大切さを重要としていました。私も本当にその通りだと体験をし、思いました。

もう1つ関心を持っていたことは『中国の薬害によるHIV感染の状況』でした。日本で起こった悲惨な事が時期を遅れて中国で問題になっていると日本で耳にしていたので、中国の参加者に尋ねました。しかし、尋ねた人々は若い世代の性感染について熱心だったためか、いくら「血液製剤由来の・・・」「血友病(ヘモフィリア)が・・・」と説明しても、「あー、ドラッグからの感染ね」(薬は薬だけれど、違う・・・)や「同性愛好者(ホモセクシャル)による感染」(ホモじゃなくてヘモなのだけれど・・・)と心に思いつつ、話がかみ合わないまま笑顔で話が終了してしまったことに脱力しました。

最後に、他の国に比べ、日本からの情報発信や若い世代の参加や意見が少なく大人しいことが気になりました。それはそのまま当事業団の課題でもあるかと思いました。国内において最新のHIV治療を行う機関、ACC(エイズ治療・研究開発センター)を設立し、またその治療を受けている状況を考えると世界に向けてできることは少なからずあります。当事業団もまだまだ取り組まなければならないことが山積みですが、自分たちの問題だけでなく広い視野をもち活動する事も大切だと思いました。

東京本部 柿沼章子

■第15回国際エイズ会議参加報告書
7月11日から16日の6日間、「アクセス・フォー・オール(万人へのアクセス)」をテーマとした第15回国際エイズ会議がタイ(バンコク)で開催されました。この国際会議には、治療薬がない途上国や、HIV治療や感染予防をする以前に生きていくことが困難な国々(経済発展途上国)を含めた約2万の人たちが参加されていました。

国々の中には、今回の開催国であるタイのように、感染当事者団体の力からHIV対策が政府の重要政策として位置付けられ、ジェネリック薬の国内生産の実現や、予防教育啓発の積極的な活動から感染者が減少傾向にある国もありました。一方、政治や宗教、文化が異なる国々と日本のHIVに関する社会環境の差を肌で感じる機会となりました。

NGO・NPOに関わるHIV展示ブースでは、世界各国から様々な出展がされていましたが、日本国内では3つしかエントリーできなかった展示ブースの一つに、JaNP+(ジャンププラス)の出展もありました。JaNP+は、地域や感染経路、各団体の枠を越えて全ての患者・感染者に適切な情報提供や活動支援を行うことを目的に活動している患者・感染者ネットワーク団体です。そのブースの一角には薬害エイズの歴史を記した英文パネルの展示や、はばたき福祉事業団の英文パンフレットも配置され、JaNP+の活動内容や薬害エイズの和解によって整備された医療体制や福祉制度が日本国内の全ての患者・感染者にも活かされていると紹介され、来場した人たちも関心深く足を止めて見学をしていました。

今回、各HIV展示ブースの見学や日本国内外の患者・感染者とも関わりを持ち、各団体の持つノウハウを知ることができましたが、今後、様々な団体とも連携を図りながら、全ての患者・感染者支援を目的としたアドボカシー、医療、福祉、生活、予防に関する様々な支援が必要である事を改めて感じました。 

東北支部 N・H


■ 第15回国際エイズ会議参加報告

7月11日から16日にタイ・バンコク市近郊で行われた第15回国際エイズ会議について、印象レベルではありますが、ご報告させていただきます。

1.会議全体について
会議のテーマはAccess for All(万人へのアクセス)で、「HIV/AIDSとともに生きてきた20年間において開発されてきた資源へのアクセスがすべてのグループ(地域住民、科学者からリーダーまで、公共・民間を問わずあらゆる現場、あらゆるレベルのグループ)にとって必要」であり、またこのアクセスは、「すべての感染者や、感染の影響を受けている人たちが享受するべきアクセス」で、「教育・情報・治療へのアクセス」でもあるというものです。
会議の1週間はバンコク市内の学校がお休みになっていたそうで、街じゅうに「Access for All」の掲示があり、テレビでも会議のCMの他、特集も組まれていて、まさに国をあげてのイベントという感じでした。公式発表によると、会議の参加者は約2万人だったそうです。

会場のIMPACT Exhibition and Convention Centreは、展示センター、会議センター、アリーナからなる巨大な施設で、展示センターでは企業やNGOのブースの展示やポスターセッション、オーラルセッションなどが行われ、アリーナでは開会式や閉会式が行われていました。会議センターはGlobal Villageというコミュニティのためのスペースが設けられ、エイズフィルムの上映会なども行われていました。会議のプログラムは「A:基礎医学」、「B:臨床研究・治療・ケア」、「C:疫学と予防」、「D:社会的・経済的問題」、「E:政策・プログラムの実行」5つのトラックに分類されていて、どのトラックも多くの人が参加していました。

2.コミュニティの参画
会議で印象的だったことのひとつに、「コミュニティ」の参画があげられます。ここでのコミュニティとは、感染者、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)、ドラッグ・ユーザー、セックスワーカー、移民労働者などのエイズ独自のコミュニティです。偏見・差別などそれぞれのコミュニティが抱える問題や取り組みが、ポスターセッションやオーラルセッションで数多く報告されていて、会場も、NGOブースやGlobal Villageなど、コミュニティとコミュニティに関わる市民社会に大きなスペースが割り当てられていました。特にGlobal Villageは、会議の登録者でなくても無料で入場できるようになっていて、コミュニティから多くの出展がなされ、展示やビデオの上映、討論会など活動が盛んに行われていました。手作りの民芸品や食べ物の販売も行われていて、NGOの活動資金を集める場にもなっていました。

このように、コミュニティの活発な参画が進められた一方で、開会式はそれと逆行するような残念なものでした。開会式のスピーカーのうち唯一のHIV陽性者で、タクシン首相の対麻薬政策を批判しているタイ・ドラッグ・ユーザーズ・ネットワークのパイサンのスピーチを妨害するような演出が行われたことです。

これには多くの抗議が行われ、会場でも翌日にはたくさんの批判の声が聞かれました。コミュニティの参加を推進しているはずの開催者側がこのような批判封じの演出を行うことは、コミュニティの参画を阻害する残念な行為でしたが、逆にこのことで、閉会式で再びスピーチを行うことになったパイサンの発言への注目が高まり、また、形だけでない真のコミュニティの参加にはまだまだ課題が残されていることを認識する機会となったように感じました。

一方で、日本のエイズ問題において欠かすことができない血友病というコミュニティに関する出展や報告があまりみられませんでした。日本から参加されていたJaNP+(ジャンププラス)のブースでは、日本の薬害エイズに関するパネルの展示なども行われていましたが、会議全体の規模に対し、「血友病」、「薬害」という視点が非常に少ないと感じました。HIV感染している血友病患者の掘り起こしや、HIV感染、HCV感染、血友病という三重の疾患を抱える患者のQOL、血液事業に関する問題など、各国が抱えるさまざまな問題や取り組みについて、より多くの報告や議論が行われる必要があることを強く感じました。

3.途上国からの参加
今回の会議で印象的だったことの2点目に、アフリカを中心とする途上国からの参加者が多く、活発な活動が行われていたことがあげられます。会場にはさまざまな民族衣装があふれていました。アフリカを中心とする諸国の参加者によるNGOブースやGlobal Villageでの展示に加え、ポスターセッションやオーラルセッションでも多くのプレゼンテーションが行われ、途上国におけるエイズへの偏見・差別の実情や、治療薬の不足、人材の先進国への流出などの医療に関する問題、貧困、剥奪、戦争など患者を取り巻く環境に関する問題などと、それらに対する取り組みが報告されました。また、先進諸国の発表に対する質疑応答で、途上国が自国の困難な状況をアピールする場面も多くみられました。このような途上国の積極的な参加によって、エイズの問題が途上国の開発における重要な課題であることが強調されたという印象を受けました。一方、途上国の存在が非常に大きくクローズアップされるなかで、先進諸国が抱えている諸問題についても、今後より活発に深い議論を行っていく必要があるように思いました。

4.当事者参加型リサーチ(Participatory Action Research)
当事者参加型リサーチとは、従来、研究の対象者でしかなかった当事者が、調査研究の主体者、すなわち共同研究者として参加し、調査の計画・立案から結果のまとめにいたるまで一貫して当事者と研究者の協議・共同で行うリサーチです。はばたき福祉事業団では以前からこの方式でリサーチを行い(山崎喜比古・瀬戸信一郎編『薬害HIV感染被害者の生存・生活・人生?当事者参加型リサーチから?』、有信堂、2000年)、大阪原告団とも共同し(薬害HIV感染被害者(遺族)実態調査委員会『薬害HIV感染被害者遺族への面接調査報告』、2002 ;『薬害HIV感染被害者遺族調査の総合報告書』、2003年)、現在も患者・家族を対象とする調査が進行中です。

今回の会議の、調査研究方法論に関するプレゼンテーションのなかで、当事者参加の調査についての報告もいくつか行われていました。当事者が単に面接調査のインタビュアーとしてのみ調査に参加するものから、調査の計画・立案の段階から当事者と研究者が共同して行うものまで、当事者の参加の度合いはさまざまではありましたが、それらを通じて、当事者が参加することによって対象者から協力が得やすくなったことや、バイアスのかからないより率直な回答が得られたこと、調査のデザインや妥当性が高められたことなどが長所としてあげられていました。

当事者参加型リサーチの方式をとることによって、当事者の抱える問題やニーズへの理解が深められ、それらの解決や実践に寄与する調査研究が期待できるとともに、調査の過程を通じて、当事者および研究者の双方が学習し問題意識を高めるというようなエンパワーメントも期待できます。HIV/AIDSに関する調査研究では、センシティブな内容を扱うことが多いため、この方式が極めて有効であると改めて感じました。

5.アジア太平洋エイズ会議に向けて
今回の国際エイズ会議では、感染者増が顕著で感染拡大が懸念されていながら、実態が明らかにされておらず、対策が急務とされている中国やインドといったアジアの人口大国の問題や取り組みが、あまり取りあげられていなかったことを残念に感じました。UNAIDS(国連合同エイズ計画)によると、このまま中国で適切な対策がとられないと、2010年までに感染者が1000万人になると推測されており、また、アジアはエイズの壊滅的な打撃を防ぐかどうかの瀬戸際にあると警告されています。2005年7月に神戸で開催されるアジア太平洋エイズ会議は、このようなアジアのエイズ問題への取り組みおいても非常に重要な会議になると思われ、大きな期待を寄せています。また、日本で開催されるこの貴重な機会に、多くの方に参加していただきたいと思います。

おわりに
今回の会議に参加して、一端ではありますが、世界のエイズに関わる問題や取り組みに触れることができました。また、NGO関係者や医療者、研究者など、多くの方々にお会いし、お話をうかがうこともできました。研究に関する刺激を受けるとともに、いろいろな立場の方のご意見をうかがうことの大切さも改めて感じられ、とても貴重な経験になりました。

東京大学大学院医学系研究科健康社会学 溝田友里

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